2007年5月17日
前回お伝えしたように「オークワ」の選手は仕事を終えたあとに毎日夜10時まで練習をしている。そして朝は、近くにある和歌山城を走るのが日課。仕事と卓球を両立させ、遊ぶ時間などはまったくない。
卓球を志す社会人としては、当たり前のことなのかもしれないが、ここまで徹底して打ち込んでいるチームはほかに例をみないだろう。
なぜそこまでできるのだろうか。大塚監督はこう話す。
「親御さんも、紹介してくれる先生もオークワに行ったら間違いない。5、6年して帰ってきたら、成長している。嫁に行くお金も持って帰ってくる。なお、卓球で強くなってくれたらいうことはないと。人間成長というかそういう形であずけてくれています。だから、日本一の技術は無理かもしれないけど、日本一の人間を育てる、その考え方は教えることはできると思うのです。そう思いながら今までやってきました。」
大塚監督は選手に遊ぶ暇をまったく与えなければ、携帯電話も持たせていない。社会人としてしっかりと仕事をし、卓球に打ち込んでいる人間に携帯電話は不要だし、余計なお金がかかる。「とにかくお金を貯めさせます。」と話す。
大塚流「人間教育、社会人教育」の哲学である。オークワに入ってくる選手はそれを承知で入ってくる。だからみんな続けられ、立派な社会人に、立派な選手に、立派な人間に成長するのだ。
「僕のところに強い選手は来れないと思う。僕のところに来るといった人は、(オークワのことを)知らない人か、先生方が不完全燃焼の子供を大塚のところに預けたら何とかしてくれるだとうという人ばかりです。何で苦労するのがわかっているのに大塚さんのとこ行くのよって言う人もいます。それでも来る選手だから、そこですでにひとつの基準をクリアしているということです。」
話を聞きながら、中途半端な気持ちではとてもオークワの選手はつとまらないな、と思った。
だが、すごいのは選手の意識には強制されているという感覚はないということ。全員が自分の意思で仕事と卓球を両立する日々を過ごしているのだ。
一言で言えば「自立」しているということになるが、「自立」と言ってもそれはかなりハイレベルなものである。だから、厳しい大塚監督をしても今ではこの選手たちに厳しいことを言うことはほとんどないと言う。オークワの卓球部ができて10年。すでにオークワの選手たちは自分たちで大塚イズムを浸透させ、もはやそれが当たり前という感覚を作り上げているということになる。
話を聞けば聞くほど、“すごい選手たちだなぁ”と感心させられる。この監督にしてこの選手、この選手にしてこの監督あり、である。
さて、当然のことだが選手も大塚監督に対して、絶大なる信頼をよせている。
「一言で言えば、信じられる監督です」(山本)
「選手を第一に考えて、強くなるために、卓球だけでなく私生活でもきちんと成長した社会人になるために教えてくださるので、監督についてきてよかったなと思います。」(衣川)
「生活面においてもいろんな面で厳しいんですけども、その奥底にはしっかりとした愛情があって、それをつくづく感じます。」(高橋)
「いろいろなことを考えているので、ひとつのことを言っていてもいろんな意味があります。愛情を感じるというか、ただ教えるとか、ただ怒るではなく、それについて考えさせる人を成長させる方だと思います。」(深江)
「一番卓球部のことを考えてくれて、経験豊富な方なのでついていけば必ず強くしてくれる日本一の監督だと思います。」(松好)
それぞれに感じ方があるようだが、話すその目は輝き、とにかく大塚監督のことを信頼しきっている。お互いにここまで信頼関係が築けることは本当にすばらしいことだと思う。
大塚監督の方針は「一生懸命」「全力」
日本リーグの1部に挑戦するにあたり「よりコース、よりスピード、より回転、まして生活態度もより厳しきしてやれと。今度、たぶん試合は勝てないだろうけど、1部の選手よりもうちの光るところがあるからそれをアピールしながら、1本でも多く取っていこう。だから臆せず、やるだけやっていく準備、その日の為に想定して、予想して、実行する。勝負の世界だから結論的にどうなるかわかりませんけど、そこまで努力していく。3セット0点で負けることはないと思うので、1セットくらいはとるようにしよう」という話を選手としていると言う。
そして、「たぶん2部に落ちると思う。けれど、何年かかるかわかりませんけど、もう一度、1部にいけるように、それだけですね。僕の考え方は、負けながら強くなるということ。どんなきれいごとを言っても負けると思うんです。しかし、負けて帰った時に、よし次ぎやるぞ、2部で勝つぞ、ということのために今準備しています。僕自身負けてきたから、こうやっていたら負けなかったのにということを選手に教えています。選手も知っていますよ。今度負けること。でも学んでくることが多いと思いますね。」と日本リーグにかける想いを語ってくれた。
また、山本キャプテンは「まだまだ実力のないチームなので1部に胸を借りるつもりで1セットでも1本でも多く取れるようチームの底上げを図ってチャレンジしていきます。はじめてのホームマッチなので、それによりもしかしたらみんながひとつ成長できるのではないかと思います。今までの経験したことがないことを経験することで、その中で会社の代表として出場するので少しでも多くとれるようにがんばります。」と1部挑戦にかける心意気を語る。
勝負はやってみなければわからない。しかし、冷静な目で見てオークワが1部に残留することはかなり厳しい。そのことを大塚監督も選手も理解しながら1部に挑戦する。この経験こそが貴重な財産になるはずだ。
取材を通して、勉強させられることが多かった。また、大塚監督にも選手にも正直なところ頭が下がる思いがした。自分はまだまだだなぁと反省もした。そして、日本生命が真の日本一ならオークワは別の意味で「もう一つの日本一」のチームだなと心から思った。
「一生懸命」練習し、「全力」でプレーするオークワの選手の姿を見るのが待ち遠しい。そこにはきっとひとまわり成長した選手の姿があるはずだから・・・。