2007年5月13日
今期、日本リーグの1部に初挑戦するチームがある。「オークワ」だ。昨年後期の最終戦で明治安田生命を破り、昇格を決めた。
(※過去にチーム数の関係上1、2部を同じリーグで開催したことがあるが、実質上は初めての昇格)
以前、記事の中でオークワの大塚監督について触れたことがある。素直な気持ちを書かせていただいたのだが、監督はじめ関係者に大変喜んでいただいた。
とにかくすばらしいチームである。何がすばらしいのかというと一言で言い表せば、「社会人選手の模範」ということである。
ここ数年で企業のスポーツに対する理解が変化してきた。様々な理由で撤退していくチームもあるが、逆に少しずつ環境や条件が良くなっているチームもある。先日、お伝えした日本生命はまさにそういうチームで、企業の大きな理解、協力のもと、常に日本一を狙い、世界を目指している。世界で戦うためにはその競技でプロ的でなければ到底通用しない。そういう意味でフルタイムで競技生活を送れるチームが増えてきていることは本当にありがたいことだと選手は感謝しなければいけない。
さて、オークワはそういう意味では恵まれているとはいえない。毎日、9時からフルタイムで一般社員とまったく同じ仕事をこなす。練習は夜7時から10時まで。さらに休日は朝6時から夜9時まで練習に明け暮れる。基本的に練習の休みはない。年に1週間から10日間くらい帰省する時が唯一の休日となる。
まさに“仕事と卓球の両立”
言葉で両立と言うのはたやすい。だが、それを実践することは言葉で言うよりはるかに難しいこと。そういった意味でオークワは、「社会人選手の模範」といっても過言ではない。
ところで、「オークワ」とはどんな会社なのか。
昭和13年創業。和歌山、大阪、奈良、三重に大型ショッピングセンター、スーパーマーケット、ディスカウントストアなど130店舗を持つ東証1部上場会社で従業員数は12,500名。関西では知らない人はいない大手スーパーである。
オークワの選手は全員が本社勤務。バリバリ仕事をこなすOLで社員からの評価が高く、仕事において信頼されている。
「あいつらみんな優秀やで」
大塚監督が選手のことを誉める。
「あいつら自信があるんですよ。仕事もできて卓球もできて、へたくそでも自分自身に誇りを持っているんです。負けても、人間負けてないっていうことでしょうね」
“選手である前に社会人であれ”ということだ。
しかし、実際には普通に勤務し、毎日10時まで練習。まったく休みもないというのは、かなりきつい生活ではある。選手はどのように感じているのだろうか。
キャプテンの山本真理は、「実力がないものが集まって、一生懸命お互いが切磋琢磨していくうちに、知らないうちに社会人としても卓球人としても成長していくところにすごい魅力を感じます。お互いに刺激しあって成長するいいチームだと思います」と話す。彼女はオークワのリーダー的存在だ。
入社10年目の衣川麻美は、「卓球だけでなく、卓球を通して会社の方々に応援してもらい、卓球を通して社会人として勉強になっている。それを自分にもプラスして、卓球も技術アップしていこうと思ってやっています」
「生活面とは、社会人としては日本一だなと感じることがつくづくあります。卓球に関して、私は高校時代は卓球をやっていなかったので、それで監督に声をかけていただいて、監督だけを信じてここまでやってきました」(高橋美穂)
「毎日が、勉強というか、わからなかったことや今まで経験しなかったことが日々すごせて、先輩方にいろいろなことを教えてもらって自分が日々成長していることがわかるような毎日を過ごしています」(深江優海)
「仕事と卓球と両立が最初はすごく大変に思えたのですけど、卓球で自分の力が徐々に伸びていると実感できるようになって仕事のほうも無意識のうちに慣れて自分のペースがつかめるようになってきたのでとても充実しています」(松好恵)
選手は全員、同じところで生活をともにしている。この同じ環境で過ごすことで人間的に鍛えられると同時に、選手同士の信頼感も想像以上に強いようだ。そして、大塚監督への信頼も絶大である。
この大塚監督の卓球に対するビジョン、指導方針こそ「オークワ」の特徴そのものになっていることは言うまでもない。
次回はそのあたりをご紹介しよう。
【追記】
以前の記事にもこのチームをいつか取材させていただきたいと書いたのだが、こんなに早く実現するとは思っていなかった。しかも、日本リーグ1部初挑戦の前にご紹介できることはタイミングとしてはこの上ないだろう。みなさんどうか、「オークワ」というチームを、「オークワの選手」の戦いぶりを注目していただきたい。